去年の海外旅行中に転けて右手を怪我した男性の話を聞いた。

その男性は海外だと治療費が高いので、病院には行かず、多分大丈夫と自分に言い聞かせて我慢していたらしい。それも最近になると痛みもないし思惑通りに治りましたよと言いながら笑うので、私は"良かったですね"と切り返したら、男性は実はこの話には続きがありましてと話を続けた。

男性はそれまでの間、右手は痛いからといろいろなことを左手でしていたらしい。

食事に始まり、スマホやマウスの操作、コップを持つ時の手、ただどうしても字はうまく書けないので、文字に関してはゆっくり右手で書いていた、と。

それが、最近字も書けるようになってきてびっくりしたそうなのだ。気づいたのは偶然だったらしい。つい数週間前、男性は自分の机で考え事をしていたらアイデアが浮かんで、ちょうど左側にペンがあったから、とっさに掴みそのまま左手で文字を書いたそうだ。男性曰く走り書きのメモを作るつもりだったが書いた後にハッと思い行動を返り、自分が左手で字が書けることに気がついたのだと言う。

男性はもう１つそれと時期を同じくして起こったことがあると無邪気に話しを続けた。左と右の区別がつきにくいのだそうだ。その時の言葉を借りると、右とか左を正確に言うために頭で考える時間が要るのだそう。

せっかくなのでメモに両手で字を書いてもらった。

2017.08